エンデュランスのクルーができることとできないことがあります。
 まず、治療行為はできません。 これを行う時は、競技を棄権、失権となってしまいます。 よってクルーが、一晩、馬にできることは、マッサージと引き馬だけなんです。(もちろん、餌の給与などもできますが)
 さて、ここで問題なのが、単純に適当にマッサージをしても効果がないということです。 どこが疲れているかを判断し、そこをマッサージしますが、いったい疲れを取るにはどうすればよいのか、それには”疲れる”を知らなければなりません。 
 筋肉が疲れるとそこに張りがでます。 つまり、細胞の中に乳酸が溜まり筋硬結(乳酸硬直)を起こすわけです。 いままでこの乳酸は、疲れを引き起こす物質とされて来ましたが、最近は、疲労回復物質や疲労軽減物質と呼ばれ、どうやら逆の作用があることがわかってきました。 なぜ変わったかこれを知るには生物の内部を知る必要があります。(今回は、難しいぞ!!)
 ”生物のエネルギーはATPである。これを生成するには細胞基質中で起こる嫌気性代謝の解糖系であり、糖(ブドウ糖)からピルビン酸を作る過程でATPを生成するが乳酸も作ってしまい筋硬結となる。生体では通常呼吸により血液中に酸素があるので乳酸に好気的な条件がそろうと乳酸は可逆的にピルビン酸となりTCA回路にてエネルギー化される。また、残存する乳酸は血液中に流れ出し肝臓で糖の再合成がなされ恒常性が保たれる”(おかもと接骨医ホームページから抜粋)
 これが乳酸代謝です。 つまり溜まった乳酸も好気的条件が揃えば、TCA回路でエネルギーに変換されるということ。 このことから乳酸硬直は、体を回復させるための手順だと考えられます。(体を硬くすることによって、運動を抑制し、酸素量を充足させ、好気的条件を作ろうと体がしているのです。)いかにして酸素を取り入れこの乳酸をTCA回路に流し込むか問題なのです。
 乳酸は血中の酸素と利用することによって好気的環境になるわけですから、血液の循環をよくすることが大切になります。
 そこで、マッサージをすることによって筋硬結で押しつぶされた血管を元に戻し、温かいタオルで血行をよくしてやることで筋肉中の乳酸を抽出できると考えました。(もちろん、大前提に馬のトレーニングが充分に行われ、身体能力(特に心臓)が強化されていることが必要)。 これが旨くいけば、乳酸の排出は早いはずです。
 更に競技中には、クエン酸を主成分とする馬用ドリンクを給水ポイントごとに給与することでTCA回路を強化(TCA回路は日本名クエン酸回路言います)していましたし、できるだけ糖を吸収できるようにもしていました。 
 理屈は解かりましたが、後は馬(名前はアランと言います)がそれを受け入れてくれるかです。
 嬉しいことに、アランは受け入れてくれたのです。 最初のマッサージをした後、欠伸をし始め30分ほど横になって眠り(これって大切なことかも知れません)、 その後は、乾草をメインにした食事をし、引き馬運動(これもちょっとコツがあります)、同じことを繰り返しましたが、寝る時間は次は1時間、その次は2時間近くとかなりリラックスできたようです。(馬が横になっていびきをかきながら寝る姿はけっこう笑えました。 その間も後肢など立っていると力の掛かる部分をマッサージ)排泄も尿、便とも1〜2時間おきにしましたので、腸の運動もよさそうでした。
 朝になると、横になると筋肉が圧迫されるだろうと考え、入念にストレッチ、準備運動し、歩様、獣医検査に備えました。
 結果は、すべて、Aという申し分ない結果。 一晩がんばったことが、報われました。
 これが理屈ですが、後はマッサージの方法ですが、これまで書くをしつこいのでエンデュランスの話はこれまで。
 でもTCA回路は、乳牛の場合、回路の中で糖が燃焼しないとケトン体が作られ、それがケトージスを引き起こします。だから、TCA回路を知ることは、乳牛でも大切なのです。